今から二百年ほど前、多加木本郷に熊八という百姓がおり、家族四人で貧しいながら仲むつまじく暮らしていました。ある日熊八は鎮守の森の大松の根元に下肥をかけ流しました。ところがこの木に巣を架けていた天狗様が非常に怒り、熊八一家の全員を取り殺そうと意気まき、次の日の白昼、勝手道具の鍋・釜や百姓道具の鍬・鋤まで一切がっさいを外へ放り出して壊してしまいました。その音のすさまじさと恐ろしさに家人はただあっけにとられ見ているばかりでした。そのうえ、家人は相次いで死んでしまいました。

 この恐ろしい不思議な有様はただ事ではないと、村人が集まって巫女に見てもらったところ、熊八のしわざから天狗様がたたったものと分かり、妙興寺の和尚さんにお経を読んで謝ってもらったら、天狗様の怒りも解け、ようやく女房一人だけが生き残りました。しかしこの女房も貧しくなり、人の門口に立つ身になり下がったということです。